功刀弘之

プロフィール

功刀 弘之
元沖縄県平和祈念資料館学芸員

 
沖縄県平和祈念資料館の元学芸班主査 2015年2月から企画展「日系二世が見た戦中・戦後~母国と祖国の間で~」を羽田空港、横浜市、那覇空港、平和祈念資料館で開催。
全国へ恒久平和を希求する沖縄のこころを発信するために奔走した。
次代の平和の語り部を育成すべく、若者主体の平和学習を行っている。
生前のヒガタケジロウとは親交も深く、この企画展の発案者である。


以下、各報道NEWSより引用

 【ハワイ】沖縄戦情報 提供して ラジオで県系人に要請 2013年5月27日

 

忠誠登録書に「ノー」で収容所暮らし…日系2世が見た戦中・戦後の証言 羽田空港で展示 2015年3月3日

 

沖縄戦語り継ぐ決意 北谷高生 学び、体験者に発表 2018年2月24日

 

「いつの間にか戦争に」 北谷高生、体験者聞き取り発表 沖縄・南桃原公民館 2018年8月21日

   

TAKEJIRO and I Had a Casual Encounter.

武二郎さんとの出会いを未来につなぐ
 
 

 比嘉武二郎さんとの出会いは、まさに偶然でした。あの時ハワイで仕事をしていなければ、そのハワイ展示の企画が通らなければ、武二郎さんが会場にふらりと立ち寄ってくれなければ・・・・・と思うと不思議な縁を感じます。
 2013年。僕は沖縄県平和祈念資料館に勤務していました。例年、資料館では沖縄県内の子どもたちから平和に関する図画、作文、誌を募集して「児童生徒の平和メッセージ」展を開催していましたが、こうしたメッセージこそ海外にも発信するべきと考えていた僕は、沖縄からの移民の多いハワイでの開催を発案し、この年、初めて実施することができました。
 オアフ島内沖縄県人会の会場で、来場者に説明をしていたある日、1人のおじいちゃんが「僕は沖縄戦に参戦して、沖縄方言で投稿を呼びかけたんだよ」とコーヒーを飲みながら話しかけてきました。それが武二郎さんでした。それまで、沖縄戦に関する多くの証言を聞いてきた僕は、「証言に出てくるあの二世だ!」と身震いしました。
 
 資料館に残る沖縄戦に関する数多く証言の中から、ガマに隠れていた住民に二世兵士が投降を呼びかけていたことは知られていました。多くは「出て行ったら殺されると思っていたから、信じなかったさ」とのことでしたが、稀に「それで出て行ったから助かった」人もいるようでした。しかしその二世が誰だったのか、彼らはどんな思いで呼びかけをしていたのかは、証言で語られることはありませんでした。
 また沖縄では「戦後ハワイから豚が送られてきた」話も有名でしたが、そのきっかけが沖縄からハワイに帰った二世兵士だったこと、戦後沖縄に残って収容所で住民の世話をした二世兵士も多くいたことも、沖縄住民の証言からだけでは詳細が分からず、二世たちの思いまでは拾うことがかないませんでした。武二郎さんとの出会いは、アメリカと日本の2つの故郷をもつ二世たちの視点から戦争を見直し、双方の立場から平和について考える素晴らしい機会となったのです。
 
 沖縄に帰ってからもこの出会いの熱は冷めませんでした。90歳以上の高齢である彼らの証言を絶対に残したい。二世たちの苦しみや葛藤こそ戦争の罪であり、だからこそ平和を求めるという思いを、沖縄の、日本中の人々に伝えよう。と、自費でハワイに渡り、ハンディカムで証言を収録し、当時使っていた辞書や写真など貴重な品をお借りし、2013年10月『ハワイ日系兵士が見た沖縄戦』と題した企画展を開催。また、糸満市商工会議所に協力を交渉し、武二郎さんを含む二世兵士(いずれも投稿を呼びかけ、多くの住民を救出された方々)を沖縄に招聘して、シンポジウムを開催することができました。会場では、座り切れないほど多くの来場者が武二郎さんたちの話に熱心に耳を傾け、涙を流されていました。
 この企画展の成功を機に、次年度は予算が獲得できたため、沖縄戦および太平洋戦争に関わった日系人の証言を収録が可能となり、資料館での展示とシンポジウムのほか、那覇空港ターミナル、羽田空港ターミナル、横浜移民歴史資料館での伊藤展示会を開催。2年連続で武二郎さんを沖縄に招くことができ、沖縄への貢献を戦後長らく公に話すことができなかった武二郎さんたち二世に対して、少しでも恩返しできたかなと思っています。
 
 武二郎さんに出会ってからの3年間は、僕のキャリアにおいて二度と出来ない貴重な仕事でした。情熱をもって向き合えた時間はいまでも僕の誇りです。
 現在は学校現場に戻り、資料館で得た経験を子どもたちに還元すべく、“次世代の語り部育成”を軸にした平和教育を実践しています。戦争体験者から聞き取りをした高校生がそれを元に、地元の中学や公民館などで平和講話を行なう取り組みです。この企画では、比嘉武二郎さんの証言から、生徒たちが講話をします。
 
武二郎さんは昨年逝去されましたが、彼ら二世たちの経験や思いを、このように若い世代が語り継いでいくことが、いつか大きな平和の実を結ぶと信じています。「へいわのためにできること」をそれぞれが見つけ、実践していく世界であったらと願い、僕も僕のできることをこれからも続けていきます。

元沖縄県平和祈念資料館学芸員

功刀 弘之